「会社を倒産から守る為に」

経営コンサルタント 築山忠志 著


発刊にあたって

 昭和四十八年第一次オイルショックの際、顧問先二件が相次いで倒産した。全顧問先について検討したところ、七件が倒産の恐れのある会社として抽出された。その内、当方で記帳事務を行っている会社、三件については、倒産月日が判明し、事実、その予定日に倒産した。残る四件の内、二件は大量仕入れを行い、仕入れ値より安く売却し、取り込み詐欺まがいの行為を行っており、いづれも最初の仕入手形決済日に倒産した。残る二件の内、一件は、土地を担保に借入していたが、建物・機械等の根底当付で担保に入れ、銀行借入の枠を増加して急場をしのいだ。残る一件は、社長が高額の役員報酬を得ていたので、個人の定期預金等を解約し、会社に投入する事によって、資金繰り手当を行い、大事に至らなかった。
 その後、オイルショックも止まり、右肩上がりの経済状況が続き、いずれも危機を乗り越え、業績は上昇して行った。
 やがてバブルの時代を迎え、どの業種も余り努力をしなくても、業績は上昇して行ったが、バブルの崩壊により不景気となり、今や業種の如何を問わず、経営の悪化を辿る一方と成った。
 試算表を見ていても、三ヶ月・六ヶ月…と、時の経過に従い、業績が悪く成って行くのが、目に見えて判断されるようになった。然るに試算表だけでは、売上増加の必要性と経費の削減程度しか分からず、経営・生産・販売・在庫・労務の各管理、社内の合理化と、高度の指導の必要性を痛感し、コンサルタントとして五年間で十数件の、会社再建に成功して来た実績を踏まえて、敢えて本書を発行するに至った次第である。

当方の住所。

〒536ー0015
大阪市城東区新喜多一丁目2ー17−107
TEL:06−6934−1164
経営コンサルタント築山忠志事務所
http://www.t-tsukiyama.com/tadashi.htm

目次

一、コンサルタントの指導を受けよう
二、社長の決断力と実行力が会社を救う。
三、会社の概況と当面の課題を知る。
四、資金管理について。
 1 資金繰り表を作成する
 2 売上割引
 3 手形割引
五、販売管理について
 1 適材適所の人員配置
 2 商品の陳列方法
 3 宣伝広告の問題
六、生産管理について
 1 営業活動の活性化
 2 製造工程の短縮化
七、在庫管理について
 1 不良品棚ざらし商品の処分。
八、労務管理について
 1 賃金体系の改革
 2 組織の変更
 3 円卓会議を開こう
九、社内経費の合理化
 1 予算制
十、最後に
 1 余剰人員の整理。
 2 大声で挨拶しよう。
 3 有給休暇は事前に届けさせよう。
 4 痛みを伴う構造改革

一、コンサルタントの指導を受けよう。

 コンサルタントを業としている人は、それなりに多くの例を見ており、経験や知識が豊富であって、社長の良き伴侶である。話し合えば、そこから何かをつかみ取る事ができるし、ヒントとなる物を得る事が出来る。
 私事で恐縮ですが、税務署勤務二十三年、税理士開業二十九年の内、経営コンサルタントを専業にした期間五年。バブル崩壊以降倒産寸前から再建に成功した会社、十数社に及び、必ずお役に立てると信じています。
 社長は孤独である。だからこそ胸襟を開いて話し合える専門家が必要なのです。

二、社長の決断力と実行力が会社を救う

 先ず社長と膝を交えて、経営・生産・販売・在庫・労務の各管理、社内合理化について話し合い、社長が今一番頭を悩ませている問題点を知り、助言を与える。
 その結果、社長が直ちに実行に着手してくれた会社は、三・四ヶ月で効果が出て来たが、全く聞いてくれない会社は極度に経営状態が悪化して行く。聞いてから半年ほど経過してから再建に着手する会社は、もう一度全面的なコンサルティングを行って、より厳しい選択を迫られたが、経営内容は上昇して行った。その間私が感じた事は、社長の決断と実行が早ければ早いほど、効果が早く現れるという事である。

三、会社の概況と当面の課題を知る

 社長との話し合いにより、社長が一番頭を痛めている問題点は判ったが、その解決の為には、何をどうすれば良いのかという事を知らなければならない。そこで会社の業務全般の概況を知る事が必要となってくる。特許権や商標権の有無、材料仕入から製品化に至るまでの工程と日数。納品してから現金化までの期間(受取手形の日数)仕入代金の決済期間(支払手形の日数)。製品展示場の有無、陳列方法、会社概況説明書の有無、広告宣伝の方法、各作業工程の人員、各店舗の売上高と人員数、各人別の売上や集金状況の把握が出来ているか、営業部の人員数、労務・総務・庶務等の内部事務の人員数を聴取する。以上の聞き取りによって、資金管理や給与体系、適材適所の配置、販売方法等の検討が可能になって来るのである。

四、資金管理について

 1 資金繰り表を作成する

 先ず支払手形の金額を月別に記入する。次に仕入材料・外注費・賃金・借入金の元利返済額・経費の現金支払額を月別に記入する。この場合、中元・歳暮・賞与等の臨時支払分も忘れないように記入する事。次に受取手形の金額を月別に記入し、さらに売掛金や売上の現金入金分を月別に記入する。そして収支を見ると、赤字になる月が多い筈である。その赤字を、その月の受注品や売上予測額でカバー出来れば良いし、どうしても黒字に成らない月は、早目に借入等の準備をしておこう。

 2 売上割引

 手形決済の日の長い手形(150〜180日)の相手方へ行って、売上の2〜3%値引きするから、集金日に手形でなく現金を貰うよう、依頼してみよう。勿論、利益率は減少するが、会社に余力が有れば、支払手形先に対して、現金払いにするから仕入金額の2〜3%値引きするように交渉し、売上割引による利益の減少分を少しでもカバーしよう。消費者金融で借りるよりも金利が安く、担保も不要と云うメリットがある。

 3 手形割引

 売上割引を依頼した会社に断られた場合、その会社の社長個人に手形割引をしてもらうよう交渉しよう。社長個人の利益になるのは勿論であるが、そこで社長が断るような会社であるなら、自分の会社が振出した手形に対して決済の自信が無いに等しく、社長個人の財産も会社につぎ込み余裕の無い会社とみなして、取引から撤退するべきである。売掛金プラス5・6ヶ月分の貸倒れ損失の発生からも、免れるよう、心すべきである。

五、販売管理について

 1 適材適所の人員配置

 人には各々、得手・不得手がある。事務向きの人、営業向きの人、技術向きの人が有る。その選択として、アンケート方式による診断方法がある。例えば初対面の人と話をするのが苦手である。初対面の人でも気軽に話し合える。多人数で話合っている場合、何時の間にかリーダーシップを握っている。単調な仕事でも苦痛なく続けられる。一人でコツコツする仕事が好きである。パソコンやコンピューターを扱う仕事が好きである。仕事中に雑談や変わった仕事がしたくなる。これ等のアンケートにより、事務・営業・技術向きとの選別が出来、その結果等により、社員を適材適所へと配置換えの実施を行う。

 2 商品の陳列方法

 商品の前を通れば思わず足を止め、触れたくなるような物品、足を止めれば思わず足が奥へと向く様な幅広い通路、自由に触れやすい商品の配列に考慮しよう。

 3 宣伝広告の問題

 まず、製品の展示場があるか。なければ会社の概況書を作成し、取扱い製品の写真を提示しよう。小売業は新聞の折込広告を利用しよう。メーカーや卸売業は業界紙を利用したり、業界名簿や電話帳等を利用して、メールを送ろう。その場合メール送付先へは五〜十日以内に挨拶を兼ねてセールスに廻ろう。

六、生産管理について

 1 営業活動の活性化

 セールスにまわった時、活気が溢れているか。事務室はもとより工場に至るまで、整理整頓が行き届いているかを、自分の肌で感じよう。活気が溢れ、整理整頓の行き届いている会社は、業績の良い会社であるから、断られても断られても、足し繁く訪問し、何とか喰い込むように努力しよう。

 2 製造工程の短縮化

 作業工程の検討を行い、無駄がないか。創意工夫によって、作業工程の削減が出来ないか、あるいは時間の短縮が出来ないかを、常に念頭におき、製品化の短縮に心掛けよう。製品化の短縮が出来、それによって生じた余剰人員は、外注に出していた仕事を自社で行い、余剰人員を吸収すると共に、外注費の社外流失を防ごう。

七、在庫管理について

 1 不良品棚ざらし商品の処分。

 不良品や棚ざらし商品は、思い切って、原価を割ってでも、二束三文でも良いから売却しよう。その結果倉庫代が浮いてくるし、製品の整理整頓が出来て効率が良くなる。又手持ち原材料、仕掛品、製品の在庫と完成予想から、手持ちに過剰在庫が無いかを、判断しよう。

八、労務管理について

 1 賃金体系の改革。

 年功序列制を改め、職種に応じた基本給制度を導入し、熟練度に応じた等級を決めて、手当を支給する。また、営業関係者には売上高に応じ、そのX%の売上手当を支給し、さらに集金額のX%を集金手当として支給する。幹部の方は売上高上昇を狙って、売上を伸ばす様叱咤激励されるが、それにあまりこだわると営業員は、相手方の支払能力を確めず、後日の返品や売掛金回収の悪さを判断せずに、ひたすら商品を置いて来るようになる。極端に言えば、委託販売のような形で売上高増加を維持しようとするからである。その結果、後日返品の山となり、棚ざらしの不良在庫が増加するという、悪循環をもたらす事に成るので注意すべきである。

 2 組織の変更

 部長・次長・課長・課長補佐・課長主任といった役職名を廃止する。従来は上から下へ、順次命令として伝えられて来た指示を、部長をチームマネージャとし、次長をマネージャとして、課長以下一般社員に至るまでをスタッフとして同一の地位におき、○○君の呼び方を改め、○○さんの呼び方に統一する。その結果、次第に縦割方式が改められ、新入社員に至るまで、発言が自由に出来るようになる。よく子供の進学に伴って、名刺に肩書きを欲する人がいるが、そのような人には、○○部マネージャ何某というように表現しておけばよい。

 3 円卓会議を開こう

 上意下達から下意上達へのグループ化を図ろう。職階制を改め、グループ化する事により、職階制による身分化は壊れ、スタッフという同一身分の集団化が図れる。チーフの横にスタッフが座り、オブザーバーとして出席する役員の横にスタッフが座るというように、全ての人が同一的身分で、対等に話し合えるように、円卓式にする事によって、自由に意見の発表を行い、良い意見を取り入れ、従来の様な命令だけを伝えるという消極的な会議から、下からの声が会議で議論される、積極的な職場に変わって行くようになる。ただし、円卓会議では、議論が百出して、なかなかまとまらない傾向がある。ある程度議論ができれば、オブザーバー的に出席している重役から、「議論が出尽くしたようですから、この当りで採決を取ります。」と発言して、重役の意見を交え、二・三の案を提案し、採決を採って会社としての方針を打ち出せば良いのです。

九、社内経費の合理化

 1 予算制

 従来の決算額を基準にして、当期の経費の予算額を決めてゆく。入るを図って、出づるを制すると云う立場から節約すべき科目は減額し、会社の当期の営業方針に従って、必要とするべき科目は増額し、営業のしやすい金額を決めてゆくのであるが、ここで必ず予備費と云う項目を見込んで置くべきである。先に述べた円卓会議により、思わぬ良い計画が提案された場合に、それに伴う支出に充当する為である。

十、最後に

 1 余剰人員の整理

 事業の減少、あるいは合理化に伴う余剰人員の解雇は、人情として忍びないが、心を鬼にして行なうべきである。パート、アルバイト等として残しておくと、それらの人々が帰宅してゆく時に、一般のスタッフが我々が一生懸命働いているのに、もう帰るのかと云った不満感が心の隅に生じ、それが仕事に悪影響を及ぼすからである。

 2 大声で挨拶をしよう

 出勤した時は「おはようございます。」帰宅の際は「お先に失礼します。」と大声で挨拶するよう心がけよう。また、来客に対しては、最敬礼をして「いらっしゃいませ。」と言おう。帰られる客に対しては、たとえそれが冷やかし客であろうと、また、自分が担当した客でなくても、「有難うございます。」と大声で挨拶する事を励行しよう。それが活気をもたらす職場に変わって来るからである。

 3 有給休暇は事前に届けさせよう。

 本人の病気や、親族の不幸でない限り、有給休暇は前日までに届けさせ、届出の無い場合は欠勤扱いとしよう。無断で休まれると仕事の段取りや、人員のやりくりに支障を来たすからである。
 では再建着手の順序はあるのだろうか。まず実行出来るものから着手すると云う方法は避けるべきである。出来るものから実行するという方法も悪くはないが、全てを同時に着手すべきである。そうしないと再建の期間が長くなる。社員の中にも次第に締めつけが厳しくなるという不満感が除々に増長し、それが態度に現れて、他のスタッフの志気にも悪影響を及ぼして来る。一度に行って不満な人々は退社して行けばよい。後はやる気の有る人だけが残る事になる。仕事の最後の締めくくりは、機械でもコンピューターでもなく、やはり人間が行なうものである事を知らなければならない。以上、言うは易く、行うは難しであるが、改革に着手するのに一瞬のためらいも許されないから、社長の速やかな判断力を期待するのである。

 4 痛みを伴う構造改革

 これは行政による人為的な政策があり、まだ実行されていないが、特殊法人の統廃合、民間事業への移行、公共事業の中止や先送り、当年分の予算削減。銀行の不良再建の処理、等々言われているが、法案すら出来ていないから、吉と出るか凶と出るかは判然としない。しかし、噂されている内容から見れば、ここ2・3年は景気が良くなるとは考えられない。まず建設関係事業、次いで機械の製造業者に、売上高減少に依る倒産が発生し、失業者が増加し、一般消費の落ち込みが激しくなり、小売業界への不況と連鎖してゆくものと思考する。金融機関の不良再建処理も三年と言われているが、その三年間に発生する不良再建の事を考えれば、金融機関の倒産も楽観が許されない。いずれにしても、構造改革が実行されれば、じっくりと先き行きを読み、その事態に対応し、行動すべきである。
「終り」